1巻完結の読み切り漫画って、結構良い作品が多いと思いませんか。
連載モノよりも「これがやりたかったんです」という想いが物語に凝縮されているような気がして。
読むのに時間がかからないという点も、多くの作品に触れたいという趣向の人には良いですよね。
そんなこんなで、最近は結構1巻完結の漫画をよく読むのですが、
今まで読んだ1巻完結漫画の中で、僕が特に好きな作品がありまして。
『昨夜のカレー、明日のパン』(原作・木皿泉/作・渡辺ペコ)
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/357920/vol_no/001
日常の中の小さな小さな感情の種を丁寧に拾い集めて描いていくような繊細さが魅力の作品です。
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それでは早速『昨夜のカレー、明日のパン』を紹介していきます!
木皿泉&渡辺ペコってサイコーな組み合わせ
個人的にですが、木皿さんもペコさんも本当に大好きな作家さんなんです。
繊細であたたかい体温がありながら、しっかり展開してゆく物語の作る方々です。
脚本家・木皿泉さん
本作は、いわゆる原作モノのコミカライズです。
原作は同名『昨夜のカレー、明日のパン』の小説で、その著者が木皿泉さん。
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/355392/vol_no/001
木皿泉さんは、実は小説家ではなく脚本家で。
『すいか』『野ブタ。をプロデュース』『セクシーボイスアンドロボ』『Q10』…
数多くの名作ドラマを生み出してきた素晴らしい脚本家です。
さらに「木皿泉」という名前はペンネームで、実はご夫婦が協同で脚本を執筆されているんです!
共に登場人物を作り込み、そのあとは妻である妻鹿年季子(めが・ときこ)さんが執筆。
それが行き詰まると夫である和泉務(いずみ・つとむ)さんがアイディアを出す…という共作スタイルで活躍されているとのこと。
木皿さんならではの、奥行きのある物語や点と点が最後に繋がるような仕掛けは、夫婦で共にアイディアを出し合っているからこそ生まれるものなんだな…と、納得。
そんな夫婦協同の脚本家・木皿泉さんの初小説が本作『昨夜のカレー、明日のパン』の原作というわけです。
漫画家・渡辺ペコさん
渡辺ペコさんといえば、昨年多くのメディアに取り上げられ話題となった漫画『1122(いいふうふ)』の作者として有名です。
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/60006413/vol_no/001
公認不倫をしている夫婦から「結婚」の在り方を描いた意欲作で、令和の時代に多くの人が共感するようなリアルさが魅力。
僕もドハマりしてしまいました。
そのほかにも2004年のデビューから『ラウンダバウト』『にこたま』など、多くの作品を継続的に発表している人気漫画家さんです。
ペコさんの作品は、ちょっとした視線や表情の移ろいでキャラクターの感情がひしひしと伝わってくる繊細な描写が特徴。
そして、セリフ(会話劇)もリアルで刺さる言葉が印象的です。
登場人物の些細な感情の揺れにしっかりと向き合って、そのキモチを紐解くように一つ一つのシーンを紡いでいく感じが、もう本当にスゴいんです。
木皿さんの本作も、ペコさんが描くことでさらに心に染みるようなあたたかみを帯びるのだから、もうこの出会いは必然というか。
それくらい素晴らしいコミカライズ作品であることを伝えたいのです。
ちょっと変わった家族が紡ぐ、再生と希望の物語
『昨夜のカレー、明日のパン』あらすじテツコは夫・一樹を亡くしてから、一樹の父・ギフと暮らしている。血縁はないけれど「家族」として暮らす二人。テツコはその暮らしをとても居心地よく感じていた。しかし、テツコの恋人・岩井はテツコと結婚したがっているようで…。
僕は、この物語は『ちょっと変わった家族が紡ぐ、再生と希望の物語』だと思っています。
この言葉の真意について、本作の見どころとともに語っていきます。
一樹を失って、テツコとギフは、もっと「家族」になった
テツコと、夫(一樹)の父・ギフは、血縁関係はないけれど一樹が亡くなった後も、共に同じ家で暮らしています。
それはハタから見たら、なんだかヘンテコな関係。
だけど、テツコとギフは、しっかり「家族」なのです。
それは、一樹と過ごした生活を保っていくことで繋がっているから。
それだけテツコもギフも、一樹のことが好きだったんだなぁ…と伝わってきます。
一樹の死はもちろん辛く悲しい出来事だし、人がいなくなってしまうことで変わってしまう関係性もたくさんあります。
だけど、ひょっとしたら悪いことばかりではなくて、こういう風に「優しさ」で紡がれていく新しい関係もあるんですよね。
作中、テツコとギフが住む家にやってきた、テツコの恋人・岩井さんが、
『この家は単なるハコではなくて、何十年の「暮らし」がつまった有機体で』
というモノローグのセリフがあるのですが、とっても素敵ですよね。
少しずつ変わりながらも、一生懸命に一樹との「暮らし」を守っていくテツコとギフの関係性を繊細に表しているというか。
それに気付くことが出来る岩井さんも、すごく優しくて思いやりに溢れた人ですよね。
そして、そんな岩井さんのキモチに応えたいけれど、一樹と暮らした家・ギフとの生活を終わらせたくないと葛藤するテツコもまた、優しくて。
優しさゆえに葛藤して、相手の気持ちを尊重しながらまた少しずつ変化していく「家族」としての関係性。
物語に描かれている部分だけでなく、その後の登場人物たちの人生にも思いを馳せたくなる物語です。
ゆるゆるとそれぞれのペースで受け入れる「死」
一樹の死は、一樹を取り巻く人たちに、ズンと重たい悲しみを与えます。
一樹を忘れないように悲しみつづける登場人物たち。
だけど、それでも彼らの人生は進んでいきます。
ずっとそこに留まっているわけにはいきません。
テツコとギフは、同じ暮らしを続けながら、ゆるゆると一樹の「死」を受け入れていきます。
お見舞いの帰りに買った焼きたてのパンのあたたかさを思い出しながら、日常の中に落ちている些細な幸せを拾い集めながら、生きていくのです。
本作では、テツコとギフ以外にも、一樹の従兄弟であったトラオや、幼馴染で家が隣のムム(あだ名)の人生も描かれていて。
それぞれ一樹の死を受け入れて前に進むために、ほんのちょっと勇気を出して、とある行動を起こします。
そんな彼らのドラマは、とっても胸が締め付けられるようなキモチになります。
でも、ゆっくりそれぞれのペースで一樹の死を受け入れ「再生」していく登場人物たちの姿に、小さな勇気を貰えたり。
痛みを伴うけれど、それでも再生して前に進もうとすることが、本当の意味で喪に服すことになるんだろう…なんて思ったりします。
どんなにツラくても、束の間の幸せは存在する
この作品があたたかいのは、「希望」の物語だからだと思います。
一樹が病気になって次々と辛い現実を突きつけられていたテツコとギフでしたが、たまたま帰り道に小さなパン屋を見つけます。
そこで買った焼きたてのパンがずっしり重くてしっかりあたたかくて、テツコとギフはそれをかわりばんこに持ちながら家路に着くのです。
悲しみにとらわれると、それ以外が見えなくなってしまうことって結構ありますよね。
でも、もし一樹が病気になっていなかったら、テツコはこんなにもパンをあたたかいと感じることは出来なかったかもしれません。
パンのぬくもりは、希望であり、幸せです。
悲しいことが続く日々の中にも確かに幸せは存在していて、些細なことでもそういう幸せの一つ一つを拾っていけば、多分前を向ける。
今日はずーっと晴れて気持ちの良い天気になるらしい、とか。
レシートの金額が「777円」だった、とか。
好きな人が優しかった、とか。
そういう小さい幸せが、ちゃんとこの世にはある、ということを教えてくれる物語です。
だから、焼きたてのパンのようにあたたかい「希望」の物語なのです。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
木皿泉さんと渡辺ペコさんが組んだ、1巻完結の読み切り漫画『昨夜のカレー、明日のパン』。
見どころ(というか僕が個人的に好きなところ)を語ってきたつもりですが、伝わりましたでしょうか。
原作小説は本屋大賞2位に輝き、NHKで実写ドラマ化もされている名作です。
それに繊細なタッチの絵が加わって、さらに読み応えのある漫画になっています。
ぜひ、一度読んでみてください。
心がじんわりとあたたまる作品です。
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