毎週、本メディアの編集部がオススメする漫画をご紹介していきます。
2021年12月③週目は4冊をご紹介。
今回は漫画賞の中でもっとも影響力の大きい宝島社『このマンガがすごい!』に選出されているタイトルで揃えています。
やはりノミネート作品は漫画好きにも刺さる良作が多く、映像化にも期待がかかる濃密な作品が盛りだくさんです。
選定理由も記載していますので、ぜひ参考にしてみてください。
『三拍子の娘』町田メロメ(eBookJapan Plus)
心躍る三姉妹の何気ない日常の一コマ
あらすじ
私たち、親に捨てられちゃったけど、結構楽しく暮らしてます。流されやすい長女・すみ、自由気ままな次女・とら、優等生だが謎多き三女・ふじの折原三姉妹。決して完璧な3人じゃないけど、私たちには私たちのリズムがある。ワルツのように軽やかに、日々の暮らしはこんなにも、強く、楽しく、愛おしい。
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/930029/vol_no/001
注目ポイント
「私たちってさあ…親に捨てられたにしてはさあ…楽しく暮らしてない?」
こんな冒頭のセリフにあるように、父に捨てられた三姉妹が日々の暮らしを軽やかに楽しんで生きてゆく物語。なんと言っても、何気ない日常の中に落ちているほのかな幸せを拾い上げるストーリーが心地よく、ゆっくりと心が満たされてゆく感覚を味わえます。三姉妹のキャラクターもそれぞれよく立っていて、軽妙な掛け合いも姉妹の関係性が見えて楽しく読めます。
参照:作者・町田メロメ公式ツイッター
また本作はショートショートの話が連なっている構成なのですが、各話ごとの展開や落とし所がとても巧みで上手なんです。些細な日常に彼女たちなりの意味を見い出し、それがしっかりオチへと繋がってゆく。その巧みさ、オシャレさに思わず拍手してしまうほど。
アプリ発の漫画として1話ごとに気軽に読めるようになっているので、ぜひ愉快な三姉妹の暮らしを覗いてみてください!
選定理由
Twitterでバスりファンを増やした本作が満を持して単行本化。そして「このマンガがすごい!2022」オンナ編14位に選ばれ、さらに話題に。現在もアプリで連載が続いており、単行本の続編も期待ができる作品のため選びました!(選定者:編集長たけだ)
『海が走るエンドロール』たらちねジョン(秋田書店)
65歳で映画を撮り始めるうみ子。何かを始めることに遅いなんてない…!
あらすじ
65歳を過ぎ夫と死別し、数十年ぶりに映画館を訪れたうみ子。そこには、人生を変える衝撃的な出来事が待っていた。海(カイ)という映像専攻の美大生に出会い、うみ子は気づく。自分は「映画が撮りたい側」の人間なのだと……。心を騒ぎ立てる波に誘われ、65歳、映画の海へとダイブする!!
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/985002/vol_no/001
注目ポイント
「映画を撮りたい!」65歳の女性・うみ子が、自身の溢れでる創作欲の波に飲み込まれ、美大への入学を決意する物語。本作のすごいところは、夫を亡くしたばかりの彼女が喪失から立ち直るよすがとして映画を撮りはじめる…わけではない、という点です。うみ子は、自分の内なる創作への衝動そのままに映画を撮りはじめます。夫との死別を乗り越えるというありがちなストーリーにせず、自分がやりたいことと出会ってしまった衝撃にフォーカスして描いている点が、逆にリアリティーがあって惹きつけられます。
参照:創作の海に「船を出す」こと──『海が走るエンドロール』著者・たらちねジョン ロングインタビュー
そして孫ほども歳の離れた現役美大生の海(かい)が、うみ子に映画を始めるきっかけを与えた重要人物。彼とうみ子のセリフのやりとりには常にキレがあって、とても映画脚本らしい掛け合いになっているところも推せます。他にも随所に映画的なカットやオマージュなど「映画」が題材の漫画としての面白みが散りばめられていて、その徹底された世界観とパワーに圧倒されます。
「作りたい側の人」作中で登場する言葉の1つですが、まさに何かを創作したいと思っている人に読んでもらいたい作品です。うみ子の映画への衝動に、背中を押されること間違いなし。大注目の漫画です。
選定理由
「このマンガがすごい!2022」オンナ編1位に選ばれた業界注目度No.1の作品につき、触れざるを得ませんでした。(選定者:編集長たけだ)
『しあわせは食べて寝て待て』水凪トリ(秋田書店)
自分の大切にするための暮らし方。令和のセルフケア漫画
あらすじ
免疫系の病気を持っている麦巻さとこ。週4回のパート暮らし。お医者さんから「婚活でも」と勧められたけれど、さとこが決めたのは家賃の安い団地への引っ越し! 面倒見の良すぎる大家・鈴さんとその息子・司との交流や、団地ののどかな時間に心身ともに癒やされて…。
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/928852/vol_no/001
注目ポイント
生産性が人の価値を決める会社員のシビアな世界。主人公のさとこ(38)は体調不良から会社に迷惑をかけざるを得なくなり、職場の人間関係やストレスから働けなくなってしまいます。そんな彼女は、マンションの更新を機に家賃を下げるべく引っ越しを考えるのですが、最終的に辿り着いたのが本作の舞台となる「団地」でした。ご近所付き合いが希薄になりつつある今の時代にあって、さとこが流れ着いた団地の人々は交流が盛んであたたかい雰囲気。そしてさとこ自身も団地の人々との交流を通して、少しずつ心と身体の栄養を補給していきます。
忙しなく進み続けている社会のなかで、休んでいることに罪悪感や劣等感を感じてしまうことって誰しもあると思います。本作は、そんな人々の心に寄り添ってスローペースで少しずつ回復してゆくことを、さとこの暮らしから教えてくれる良作です。作中に登場する薬膳料理も疲れた心をそっと解きほぐしてくれる優しさに溢れており、思わず真似してみたくなるものばかり。団地漫画でもあり、料理漫画でもあり、そしてライフスタイル漫画でもあり、全てのテイストがぴったりとハマっている物語です。
参照:連載漫画「しあわせは食べて寝て待て」水凪トリ 第2話 「風邪ひきを癒すスープ」
また、90代の大家・鈴さんと、血縁関係のない20代の青年・司が一緒に暮らしているという設定も、新しい互助の形を提示する令和の漫画感があって好感度が高いんです。短い尺のドラマとしても最適な物語ではないでしょうか。
選定理由
「このマンガがすごい!2022」オンナ編8位にランクインしたことで脚光を浴びた本作は、なんと著者の持ち込みで即連載が決定した作品でもあり、その注目度は業界でも随一。コナミリサトさんの『凪のお暇』にも似た世界観があり、映像化にも向いていそうな作品であることから選定しました!(選定者:編集長たけだ)
『ダーウィン事変』うめざわしゅん(講談社)
人間とチンパンジーの子供「ヒューマンジー」が問いかける人類の分断
あらすじ
テロ組織「動物解放同盟(ALA)」が生物科学研究所を襲撃した際、妊娠しているメスのチンパンジーが保護された。彼女から生まれたのは、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーだった。チャーリーは人間の両親のもとで15年育てられ、高校に入学することに。そこでチャーリーは、頭脳明晰だが「陰キャ」と揶揄されるルーシーと出会う。「テロ」「炎上」「差別」……ヒトが抱える問題に、「ヒト以外」のチャーリーが、ルーシーとともに向き合うヒューマン&ノン・ヒューマンドラマ。作品集『パンティストッキングのような空の下』が「このマンガがすごい!」2017(宝島社)のオトコ編第4位にランクインし、話題になった漫画家・うめざわしゅんによる連載作品、開幕!
参照:https://booklive.jp/product/index/title_id/870235/vol_no/001
注目ポイント
インパクト抜群のSF漫画がまた出てきた!本作の主人公は、なんと人間とチンパンジーのハーフ「ヒューマンジー」。この極めて異端な存在・ヒューマンジーとして生まれきたチャーリーが、人間社会の中で様々な困難と対峙しながら生きてゆくという、シュールで妙にリアリティのある世界観に引き込まれます。
本作の注目ポイントは、本作が人間社会の差別や偏見、分断をテーマに描かれていること。この壮大なテーマを超絶マイノリティーな境遇に置かれるヒューマンジーのチャーリーに託した設定の巧みさに驚かされます。そして高度な知能を持つチャーリーが、彼を排斥しようとする同級生たちに痛快な皮肉をぶつけるところなど、風刺の効いたエンターテイメントになっている点も魅力的です。
果たして人種や価値観の違う他者を受け入れられる社会は訪れるのか。今の排他的な人間社会にチャーリーがどう影響を与えて行くのか(または影響されていくのか)。
様々な事件に巻き込まれてゆくチャーリーの姿を通して、自分自身の価値観を見つめ直すキッカケにもなるかもしれません。重層的な構成や骨太なディティール、怒涛の展開で読者を飽きさせない、いま大注目のSF物語です。
選定理由
「このマンガがすごい!2022」オトコ編10位にノミネートされたことだけでなく、それがあの不世出の天才漫画家・うめざわしゅん先生の新作漫画ということで、その話題性と世間の期待値の大きさから選出しました。(選定者:編集長たけだ)
以上、12月③週目の編集部・注目マンガでした!
先週分はこちら:【令和3年12月②週目】メディア編集部が注目する今週のおすすめ漫画!
それでは素敵な漫画ライフを!
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